先日ある患者さんが当院への通院が困難になってきたとのことでご相談があり、お近くの漢方専門医に紹介しました。正直もうお会いすることはないのかなと思っていたのですが、1ヶ月も経たずに戻ってきました。理由を聞くと紹介先の所では既製品しか処方しておらず、当院のように調合は出来ないので診療を断られた、とのことでした。バツの悪そうな患者さんを見て、私の方こそしっかり確認しておけばよかったと反省しました。
紹介先は漢方専門医で学会発表も結構されている先生で名前も存じ上げていたので、このようなことになるとは予想していませんでした。私は複数の漢方薬を調合したり、生薬のエキス末や粉末を使ったり、煎じ薬もお出しすることがあります。これらはもちろん患者さんのためにおこなっているのですが、実は自分のためでもあります。というのはこういった処方をすることで臨床能力が高まるからです。
どういうことか、カレーに例えて説明します。カレーはいろいろなスパイスが入っています。漢方ではカレーが葛根湯などの方剤、中に入っているスパイスが生薬となります。カレー好きの方ならいろんなカレーを食べて「A店のカレーは・・・、B店のカレーは・・・」と説明できると思います。しかし、ではA店のカレーを自分で作れるか、あるいはA店のカレーをB店のカレーのようにアレンジできるかといわれれば、それは別の話になると思います。漢方は本来オーダーメイドです。ですから例えば葛根湯でもその患者さんにより合った形に調整することは自然なことです。その場合どうしても生薬の知識が必要なのですが、これは本を読むだけでは身につきにくいのです。たとえば辛いスパイスはいろいろありますが、生姜と胡椒と山椒の違いを本で読んだだけで十分に理解することができるでしょうか。難しいですよね。生薬も同じで使ってみて初めて感覚的にわかる部分があります。これが葛根湯のように常にセットになった形でしか使っていないと、どうしても生薬の理解が深まらないのです。
ですから漢方を専門とするなら是非生薬を一味ずつ加減したりして使って頂きたいと思います。そうして生薬の理解が深まれば、漢方を自由自在に使いこなせて治療効果も高まり、診療がより楽しくなるのは間違いないと思います。