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中医黒

最近中国語を勉強している関係で中国の方と話す機会が増えました。私が中医であることを知ると「日本では中医は人気がありますか?」とか「日本人は中医を信じていますか?」という質問を受けることがあります。中医薬大学の学生と話す機会があったのでちょっと聞いてみたのですが、予想していたとおり中医を信じていない人が一定数いるとのことでした。これを聞いて私は一昔前の日本の状況を思い出しました。私が研修医だった頃、漢方を信じていない医師がたくさんいました。私が漢方を勉強し始めた頃もやはりそういう考えの医師は少なからずいて、医者のくせにそんな非科学的なものを信じるのはどうかしている、という冷たい視線を感じることもありました。(私はあまり気にしませんでしたが)しかし、今では漢方を処方したことのある医師が9割を超え、すっかり逆転したように思います。

中国で漢方薬(中薬)が十分な市民権を得られていないのはいろいろな理由があると思います。厳しい意見になりますが、その中で一番の原因は中国の中医全体のレベル低下によると私は考えています。これは以前師匠から聞いた話ですが、中医専門の病院でも入院患者は漢方薬を使わずもっぱら西洋薬で治療するというのです。肺炎で入院してきた患者がいたら抗生物質で治療します。肺炎は一般的に細菌感染が原因ですから抗生物質を使うのはもちろん正しいですし、一般的に漢方薬で治療するより確実です。しかし、漢方薬が全く効かないというわけではありません。今回の新型コロナウィルス肺炎も漢方薬で改善したという報告もあります。ですから漢方薬を併用すればより効果的ですし、抗生物質だけでは助からない人も助かる可能性があります。しかし、本場の中医でもそのすべを知らない人が少なくないのです。

もう一つ例を挙げると一昨年私は上海中医薬大学に短期研修に行きました。事前の計画で研修はすべて教授の外来見学をお願いし特別に認めてもらいましたが、実際に行ってみると一部の教授の都合が悪くなり中堅の内分泌の先生の外来を見学することになりました。しかし、中堅の先生が果たしてどれくらいの実力なのかも実はすごく興味があったので、楽しみにしていました。見学させてもらった先生はとてもフレンドリーで紳士的な先生だったのですが、診療が始まると驚いたことに半数以上の患者に中薬を処方していませんでした。甲状腺疾患の患者には西洋薬を処方します。糖尿病の患者にも食事指導とやはり西洋薬です。確かにこういった疾患を漢方で治療するのは簡単ではありませんが、糖尿病が改善することはありますし、甲状腺のバセドウ病も漢方だけで完治させたこともあります。ですから大学病院でこういった診療が行われているのは私にとっては大変ショックで、見たくなかったというのが正直な感想でした。

理屈はともかく、漢方薬を飲んで良くなれば患者は漢方を信用してくれると思います。中国の現状を変えるのは時間がかかると思いますが、日本のようにみんなに認めてもらえるようになる可能性はあると思います。なんと言っても本場ですから、是非そうなってほしいと心から思っています。もちろん今でも優秀な中医はいると思います。そういう中医を探して交流したいと思っているので、これからも中国のいろんな所に研修、視察に行きたいと思っています。