先月から今月にかけて急性期の方を10名程度診察させていただきましたが、全国的に患者さんが減少しており、当院でもひと段落といった感じです。そこでこれまでコロナの診療で感じたことを含めて雑感をお話ししたいと思います。
これまでSARSなどの新型の感染症が流行したことがありました。SARSの時も中薬(漢方薬)が有効だったという論文がありますが、中医学的にみると今回のコロナもそれらと大きな違いはないように思います。どちらも瘟疫と呼ばれる流行性の熱病に属し、病原性(中医学的には邪、この場合は邪毒といってもいいかもしれません)が強く、それにより感染力が強くしかも症状が重症化しやすい、といった特徴があります。邪が強く高熱が出やすい場合、一般的に熱邪になることが多くなります。例えばインフルエンザの場合、初期には倦怠感や関節痛の他に非常に強い悪寒を伴うことが多いですが、これは寒熱でいうと「寒」の状態です。感染症の邪は一般に風邪を伴って体に入ってきますので(ここの説明は今回は省略します)「風寒」といわれる邪になります。これに対しては麻黄湯、葛根湯、桂枝湯などを用いて治療します。これで速やかに治ればいいですが、そうでない場合は熱が出て体もすごく熱く感じるようになります。これは「風寒」の邪が「風熱」の邪に変化しているのです。(専門的には化熱といいます)この変化は非常に早く場合によっては数時間で起こります。これに対しては銀翹散などを用いて治療します。このようにインフルエンザでも発症してから少し時間がたつと熱邪になることが少なくありません。そして今回のコロナでは私の経験からすると最初から風熱であることが多いように思います。中国の衛生部が推奨している中薬(漢方薬)も熱邪に対するものが大半です。邪が強い場合、その寒熱は邪の性質によることが多く、患者さん自身が冷え性か暑がりかはあまり関係ありません。ちなみに私は冷え性ですが、もし感染したら清熱薬で治療することになると思います。薬は邪が強い分、しっかり使っていく必要があります。以前にも書きましたが、そのように薬をお出しすることで連日38,9度出ていた熱が大体2,3日で解熱することが多いです。
今回のコロナに特徴的だと感じる点は急に悪化することがあるということです。咳、痰などの肺炎の予兆が全くない方が急激に肺炎を発症するケースがあります。これはなかなか予測が難しいため、たとえ呼吸器症状がなくても最初から肺炎を予防するように処方を組んだほうがいいと個人的には思っています。
それから予防についてですが、個人的には中医学的に特別なものはないと思っています。板藍根などの生薬が予防に使われているケースがあり、実際に効くことがあるかもしれませんが、これらの生薬はほとんどが清熱薬であり、いつ収束するかわからないこの状況下で服用し続けると体が冷えて最終的には免疫が落ちる可能性があります。では補中益気湯などの免疫を上げる薬はどうかというと、疲れがたまって免疫が落ちている人にはいいと思います。しかし、もともと元気な方が飲んでも効果があるとは思えません。ですから普段から規則正しく生活して疲れをためない、ということ以外特別なことはないように思います。