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ツムラ125周年記念講演

今日は大阪でツムラの125周年記念講演に参加してきました。125周年ってすごいですよね。創業が1983年、明治26年だそうで、明治以降の漢方の歴史はツムラ抜きでは語れないのかもしれません。

そんなツムラの講演会は内容も充実していてとても楽しかったです。中でも興味深かったのはシステムバイオロジーの話です。この中で” the long tail”というものが紹介されていました。これはアマゾンの本の話で、アマゾンの本の売上の約40%は実際の書店で販売されている本だそうです。しかしその何倍もの普通の書店には並ばないあまり売れない本を販売することで約60%の売上を上げている。このようにネットショップで圧倒的な品数を販売すると通常の店舗の2倍の売上になるということでした。そしてこれは自然界にも当てはまり、漢方のような多成分の入った生薬は一般的に指標とされる有効成分だけでなく、残りの部分にも無視できない効果があるだろうと演者の先生はおっしゃっていました。

私もこの考えに同感で、これまでの臨床経験から指標となる成分だけでは生薬の効能は十分に理解できないと考えています。しかし薬学部の先生は指標成分だけで生薬を語ろうをする傾向があり、そのため私はこの手の話にはあまり興味が持てません。しかしこのシステムバイオロジーは生薬という多成分の薬を一つのシステムとみなし、これが生体という複雑なネットワークを持つシステムにどのように影響を与えるかということを考える学問のように思えました。こういった学問によって漢方薬がより詳しく解析されて今までにない知識を我々に提供してくれる可能性が大いにあるではないか、そう思いました。

しかし、それにも一つ大きな問題があるともいます。ある漢方薬が生体に効くメカニズムがわかったとしても、それがすべての人に効くわけではありません。例えば胃炎の場合、西洋医学であれば胃酸を抑える薬で大半の人はよくなります。しかし、漢方の場合は胃炎に使う薬もいろいろあります。人によって使う薬が違うのです。また同じ人でも体調が変わると効く薬が変わってくることがあります。このようにダイナミックなものなので遺伝子を調べれば効くか効かないかがわかる、というものでもないと思います。漢方医はこれを「漢方の診断技術」でカバーしているわけですが、それに変わる科学的な手段を見つけることは相当に困難で、少なくとも今の科学技術のレベルでは無理ではないかと個人的には思います。

ともあれ、普段コテコテの中医学を行なっている私としては非常に新鮮な話でとても楽しめました。さらに研究していただき、また勉強させてもらえればと思います。