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孤高の診療所

先月台湾に研修に行っていました。今日はその時に見学させてもらったある診療所の話をしたいと思います。

見学の日は朝早くホテルを出て診療所に向かったのですが、途中タクシーが道を間違えて大幅に遅れてしまいました。到着してみるともう診療が始まっていて、すでに患者さんがたくさんいました。噂には聞いていましたが、すごく人気のようでした。

最初に院長の弟さんから診療所の概要を紹介していただき、早速診療の見学をさせていただきました。その診療がびっくり。なんと脈しか診ません。普通中医は舌も診ますが、それどころか患者さんの話も聞かないのです。ひたすら脈を見る・・・それが終わったら処方が決まって診療は終わりです。それで文句を言う患者さんもいません。皆さん、先生の診察をすごく信頼しているようです。私も15年以上漢方に携わっていますが、今までこのような診察を見たことがなく、眼の前で繰り広げられる光景にあっけにとられていました。台湾では脈をみて患者さんの症状を言い当てる中医もいるようですが、この先生は脈と症状を全く切り離して考えています。ですから患者さんの症状も聞かないのです。

すごいですよね。普通ならそんなので治るはずが・・・と思ってしまうところです。処方する薬も私が普段使う処方とだいぶ異なっていました。しかし1日数百人患者さんが来ているという事実が、この先生の実力を物語っています。

数年前から、国内の漢方事情にあまり興味がなくなって武者修行のような気持ちで海外研修なり、視察を行っていますが、今回ほど診療で衝撃を受けたことはありませんでした。(というか、正直に言えばこれまで衝撃自体受けたことがありませんでした。)毎回自分と比べてどうかということを考えながら診療を見学していますが、今回は自分の理解を超えていることが多くて比較しようがないというのが正直な感想です。ただ処方を見ればどういった治療方針なのかはわかります。処方は独特でほとんどの患者さんに同じような治療をしていました。それで、帰国してからその先生のやり方を参考に治療しているケースがありますが、うまくいくこともあればそうでないこともあります。

個人的に感じているのはその先生の治療方法は強力な治療法の一つであることに間違いないのですが、すべての人に有効というわけではないと思います。また専門的になりますが、台湾と日本での生薬の違いによって治療効果の違いが生じているのではないかと推測しています。

いずれにしても、非常に貴重なものを見学させていただきました。ちなみにその診療所で「不射の射」というビデオを見せられました。達人の域に達するにはとてつもない修行が必要だということのようで、私もこれからあと30年修行するつもりで頑張りたいと思います(笑)