メニュー 閉じる

診断の難しさ

漢方は一般的に西洋医学に比べて診断が難しいことが多いです。それは検査ではっきり診断できるようなものではないからです。例えば血糖値が126mg/dlを超えたら糖尿病と診断されますが、これなら診断は簡単です。しかし、漢方の場合は通常単一でクリアカットできるような診断基準はありません。ですから問診と脈診、舌診(中医学の場合)で総合的に判断して診断していきます。

ただ、私も気づけば20年以上漢方に携わっており、普段は診断に困ることはそれほど多くはありません。しかし、自分が合っていると思う薬を処方しているのに良くならないケースはより判断が難しく迷うことがあります。

例えば先日もこんな例がありました。以前から眩暈で通院中の患者さんで、普段は少し眩暈が出そうになると真武湯の頓服を飲むとすぐに楽になります。ところがこの前、起きられないほどの強い眩暈が出ていつもの真武湯をのんでも全く良くならないということで連絡を頂きました。眩暈に使う漢方薬はいろいろあります。いつもはよく効く薬が全く効かないとなるとこれまでと違う病態や薬を考えたくなるのですが、いろいろお話をお聞きして総合的に考えると真武湯が効くいつもの飲邪の状態が何らかの影響でかなり強く出ている可能性が高いと思われました。そこで真武湯を続けて服用してもらい、頭の検査も受けてもらうようにお伝えしました。翌日また連絡があり真武湯を飲んで少し良くなってきたとのことでしたので、真武湯を2段階ぐらい強めて飲んでもらうようにお話ししました。それから程なくして定期診察にお越しになられたのですが、強めた真武湯を丸1日飲んだらすっかり良くなって普通に動けるようになったそうです。さらに驚いたことに何年も前からあった小さい耳鳴りがなくなったというのです。

漢方薬が効かないときに考えられる可能性は第一には漢方的診断(弁証)が合ってない、従って薬も合っていないというものです。その次に薬は合っているが効果が足りないという場合です。このうち後者を正確に判断することはかなり難しいです。まず自分の診断の正確さに自信がないと出来ませんし、それから薬についてもどれくらい使えばどれくらいの効果が出るのかを十分に知っておく必要があります。例えばツムラの真武湯は一包2.5gで通常1日3回ですが、それしか使ったことがないとこういった場合にどうすればいいか、またどのようにすれば効果が増強するかがわかりません。今回のケースでは慢性的な耳鳴りも良くなったとのことでしたが、普段はベースの薬に加えて真武湯を1包頓服で飲むだけで眩暈は治まっていましたし、耳鳴りも普段の訴えにはあまりなかったので、そこまで強めてお出しすることはありませんでした。この耳鳴りも眩暈と同種の飲邪だったのですが、ただ非常に頑固で真武湯1包では効かずにずっと耳の中にとどまっていたのです。これは私自身非常に勉強になりました。

このように漢方の診断は難しいこともありますが、日々いろんな症例を経験させていただきたくさん勉強させていただいています。そしてそれを治療の中で生かすことで患者さんにお返し出来ればと思っています。