数日前のトレンドワードに「森林限界」というのがありました。何かと思えば十代にして5冠になった藤井竜王が言った言葉だそうです。広辞苑によると、森林限界とは「高緯度地方や高山の森林生育の上限」で「富士山の森林限界は5合目付近」だそうです。これは森の中にいてまだ頂が見えない、という意味を含んでいるのかなと思うのですが、事実上将棋界の頂点に立ってのこの言葉、凡人では計り知れない境地で思わずうなってしまいますね。
私自身もレベルは違いますが、漢方、中医学という自分の専門分野ではいろいろ思うところはあります。他の臨床家と比べて自分が劣っていると感じることはほぼないのですが、ただ自分の絶対的なレベルがどうかと言われると正直に言ってすごく高いとは言えないと思います。漢方の世界では後漢の時代に傷寒論を著わした張仲景という人がいます。その中で初めて六経弁証という診断方法が用いられ、傷寒論自体が一つの医学大系になっています。この六経弁証は漢方の使用において極めて有効で、特に日本漢方ではこの本がバイブルになっています。しかし、どのようにして六経弁証が出来たのかは謎に包まれたままで、後世の漢方医でこれを明らかにした人は誰一人いません。数学ていえば有名な定義が書かれていてそれを使うと様々な問題が解けるのですが、その定義自体を誰も証明できていない、という感じです。ですから張仲景に比べれば私なんかはせいぜい研修医レベルだと思います。
また将棋の世界ではAIの活用でこれまでの常識だとまず指さないような手が有効だったりして、将棋自体がだいぶ変わってきているように思いますが、漢方の世界でもまだまだ新しい理論や治療法が出てくるように思います。中国では立派な中医学の教科書があってみんなそれを学びますが、私自身が使っている中医学の治療法の中には教科書に載っていないものもいくつかあります。そういうことを考えると中医学もまだまだ発展する余地は十分にあると思いますし、私も森の中で頂上はまだ全く見えてないと思います。もし、頂が見えるとしたら癌を含めた全ての病気が治せる見込みが立つ時だと思います。藤井竜王は森林限界まできているのでもう少しすれば頂が見えるでしょうが、私は多分死ぬまで森の中だと思います(笑)