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胃にいい漢方薬は六君子湯なのか?

先日胃の症状のある患者さんとお話ししていたときのことです。当院でお出しした漢方で症状は良くなっていたのですが、元々かかっていた内科の先生がそのことを知ると、「私も実は六君子湯という漢方を飲んでいて調子いい。六君子湯がいいと思いますよ」というようなことを言われたそうなのです。その先生は最近漢方の勉強を開始されたそうで患者さんのことを思ってそうアドバイスされたのだと思います。しかし、これまでも何度かブログに書いたように六君子湯はいい薬ですが実際にはよく効くことは少ないのです。にもかかわらず消化器内科の先生は六君子湯を処方されることが多いように思います。それはなぜかというと”機能性胃腸症に対してエビデンスがある”ということでメーカーが六君子湯の宣伝をするからです。一般に医者はエビデンスを重視し、エビデンスのある治療を行うことで適切な治療を行っていると自信を持ちます。これを否定するつもりはありませんが、漢方薬についてはエビデンス自体が現時点ではほとんどありません。なぜかというと西洋医学と東洋医学はそもそも完全に別の医療体系ですから、西洋医学の病名で漢方を評価すること自体に無理があるからです。たとえば胃炎でも漢方的にみれば脾気虚、湿困脾胃、胃熱、胃痰熱、胃寒、肝胃不和などのいろいろな病名があり、一つの漢方薬で大半の胃炎を治せるかというとそれは困難です。ですから私のような専門家の立場でみると漢方をエビデンス重視で用いることは本来の漢方治療を大きくゆがめていることになります。そもそも漢方を使用する時点でエビデンスの乏しいものを使用しているのですから、エビデンスにとらわれずに漢方的な思考経路で治療することが大事ではないでしょうか。そうすることで初めてビギナーのレベルを脱することが出来るのかなと思います。

ちなみに六君子湯が効くのは脾気虚です。これは簡単に言うと胃腸が弱っている状態です。ならば沢山の人に有効ではないかと思うかもしれませんが、一つ条件があります。それは胃腸に漢方的にみて痰湿という邪がないことです。この痰湿は食事から生まれてきます。脂っこい物や甘い物、アルコールは痰湿を生じやすいですし、それ以外の物でも食べ過ぎるとうまく消化できずにやはり痰湿が生まれます。どうでしょう?これなら痰湿を持っている人も多いのではないでしょうか?この痰湿は六君子湯ではほとんど取れませんから、ベースに脾気虚があっても六君子湯では良くならないのです。では六君子湯が効く人はどういう人かというと胃腸が悪いことを自覚していて食事にもすごく気をつけているけど、それでも胃の症状がよく出る方です。こういう方はかなり胃腸が弱っていることはすぐにわかりますよね。そして漢方的には胃腸がすごく弱っている人は疲れやすいです。前述の先生もおそらくそうで、日々の診療を行うのはかなり大変だろうと推測します。ですからこの先生には無理をしないで十分な休息をとって疲れをためないようにしたいただきたいと思います。